昨晩、ジョブチェーンというTV番組で、「天然乾燥材と人工乾燥材」についての紹介がありました。
日本中の大部分の住宅が人工乾燥材でつくられていること。
人工乾燥材は内部割れが発生しており、強度が弱いこと。
自然乾燥材は耐久性が高いが、少々コストアップとなること。
などが紹介されました。
林野庁はじめ、林業行政、ハウスメーカー、プレカットメーカー、心無い林業家の方々は驚いたと思います。
これは、住宅産業の公然の秘密のようなものです。
声を大に訴えると、業界内で村八分にされるおそれもあります。
私も徳島にもどってから、天然乾燥材を使っている先輩設計者や大工さん、林業家の訓示を受け、
天然乾燥材を出来る限り使うようにしていましたが、かなり注意をして発表をしていました。
それが、全国放送で声を大に流れてしまった。昨晩は本当に痛快でした。
なお、専門家として昨日のTV番組を少々、補足すると、
人工乾燥材の全てが悪いのではなく、適切ではないタイムスケジュールで乾燥をさせた場合に強度低下を招く、というのが正しい理解だと思います。
スギは人工乾燥のタイムスケジュールが難しく耐力が落ちやすいですが、ヒノキは比較的耐力低下が認められないことも分かっています。
スギで特に問題なのは、せん断耐力が大幅に低下をすることです。上表でCになってしまっています。
木造の弱点は、梁と柱との接合部です。
スギは主に梁に用いますが、せん断耐力が低下すると、地震時に柱との接合部で座屈を生じさせます。
詳しくは、石川県林業センターの「安心・安全な乾燥材の生産・利用マニュアル」をぜひ、一読下さい。
こうした説明を、住宅を設計している時に、多くの設計者もハウスメーカーも説明をしていないことは問題だと思っています。
施主が、人工乾燥とするか、天然乾燥とするか、それぞれの長所短所を知った上で、予算や間取り、梁の架け方に応じて適切なものを選択できるように、説明をしてあげることが大事だと思うのです。
これが人工乾燥のための釡です。
水蒸気が抜けると同時に、樹の成分もしたたり落ちます。
出ていく水分から樹の良い香りがします。
つまり、強制的に乾かすため、細胞と細胞との間にある弁を壊し、樹のもつ様々な成分も同時に抜けていってしまいます。
天然乾燥は、樹を山側に倒した後、半年程度、山で寝かせます。
樹は切っても生きているので、葉からの蒸散作用で、水分が抜けていきます。
山で、半年置いた後に、海岸沿いでまた半年、桟積みで乾かします。
自然に水分を抜くため、細胞と細胞との間の弁を壊すことがありません。
そのため、製材された後も、梅雨時期には湿気を吸い、冬にはゆっくりと水分を補給してくれます。
人工乾燥のように弁が壊れていると、強度に問題があるだけでなく、調湿作用も失われます。
もう一点、人工乾燥も石油価格向上のため、値段が上がってきました。
天然乾燥は化石燃料を使わない、エコでクリーンな乾燥方法です。
設計者の感覚としては、あまり値段も変わらない気がします。
だったら、天然乾燥を使おう!と思うのですが。。。
しかしながら、一般的な林業や製材側は、今後も人工乾燥材を続けていくと思います。
というのも、自然乾燥は、切旬を守り、かつ乾燥は商品にするまで最低一年かかり、需要の変動が激しい今日ではビジネスとしてリスクが高すぎます。
人工乾燥であれば、切旬に関係なく、足りなくなれば、いつでも山から木を切り、人工乾燥にかければすぐ商品にできます。
また、桟積み場は宅地のため、固定資産税がシャレになりません。
もちろん、人工乾燥も、乾燥機は数億の投資ですから、人工乾燥を始めた以上もうやめることができません。
進むも地獄、戻るも地獄のような世界に、林業や製材業は入っているのだと、最近つくづく感じています。